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鋳物場 2011.9.17

001:定塚康宏さん

富山県高岡市のudecoプロジェクトのメンバーの一人、定塚康宏(じょうづか みちひろ)さんの(有)北辰工業所を訪ねました。
社長の定塚さんは鋳物職人。表札や銘板などを中心に制作していますが、近年は「たいやき器」などのオーダーも増えているとのことでした。

002

北辰工業所で作られていたたいやき器は、真鍮やアルミ製。あれっ?たいやき器って鉄でなくても大丈夫なのですか?と思わず尋ねました。街でよく見かける黒色のたいやき器は鉄製です。鉄は熱伝導率が高いため、外側がパリっとしたたいやきが焼けます。それはそれで美味しいのですが、お年寄りには少し固いという話を聞いて、パンケーキを焼く要領で低温で焦がさず柔らかく焼くことを思いついたそうです。それにはアルミや真鍮のほうが適している。それが評判になりオーダーが増えているとのことでした。

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写真003は、大学生たちが紙粘土で作った魚を原型に作ったたいやき器。型さえあれば、簡単に複製し量産できるのが鋳物の特徴です。写真004はパンダ。たいやきと言えば、表と裏が鏡面対象形ですが、パンダの裏はパンダの後ろ姿。裏表がはっきりしているモチーフも作れるわけです。つまりモチーフは何でもよい。原型さえあれば、何でも金属に置き換えられる。金属を鋳込む鋳物場には、不思議な魅力があります。

005:北辰工業所の鋳物場

その日は休日だったため、鋳物場には火が入っていませんでしたが、一見雑然としている工場は、動的です。ストップボタンではなくポーズボタンが押された状態と言いますか。ポーズを解除すると間髪入れずに工場が動き出す予感がします。

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どこの鋳物場も薄暗い。火の色を見て温度を調整するため明るすぎると具合が悪いのだそうです。

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薄暗い鋳物場の機械や道具類は、フジツボがついた海岸の岩のようにゴツゴツとしており、風格があります。

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009:砂型

写真010や011のような使われなくなって錆び付いた道具類も「錆モノ」好きの私には魅力です。

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飛び散る火の粉でボロボロになった定塚さんの作業ズボンは、鋳物場の荒くれ道具たちと対等に付き合うためのユニフォームに見えました。

012:定塚さんの作業ズボン

鋳物場は、アルミ製たいやき器の明るく軽やかなイメージとは対照的に暗く重く力強い。そこで働く職人も雄々しくたくましい。モノを生み出すエネルギーを肌で感じられる場所です。鋳物場に居るだけでデザイン欲が湧いてくる。鋳物場に脚を運ぶためにデザインしたくなる。そういうモノづくりの本能を誘発する力が鋳物場にはあるように思います。本来はモノを作るために製造現場があるはずですが、製造したいために何をデザインすべきか考えてしまうこともあるのです。