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around 2012.10.13

ガラス作家の高橋禎彦さんと開発してきたカップ「around」が完成しました。2013年2月7日(木)から開催されるCCJクラフト見本市で販売を開始します。

「around」には、「周りに」「回って」「あちこちに」「動き回って」「およそ」といった意味があります。「だいたいコップであるモノ」を作りたいと思いデザインしました。宙吹きで制作しているため、ガラスをグルグル回しながら作っている様子も名前に込めています。

「だいたいコップ」とは、水やジュース、お酒などの飲み物を飲む道具にも見えるし、アイスクリームやプリン・カップにも見えるようにデザインしたということです。具体的には、誰もがコップと聞いて思い描くイメージより、飲み口を広めに、サイズは小振りにデザインしました。それだけのことで、何に使う道具なのか曖昧になります。用途に揺らぎが生じる。たいてい道具は、使用目的を決めてデザインされていますが、使う人が使用目的を決められるような仕掛けを作ることによって、キャパシティーの広いデザインを目指しているわけです。使い手が加わってはじめて完成するプロダクトとでもいいましょうか。
意図していなかったのですが、逆円錐形なので手の大きさの大小に関わらず、持ちやすいという利点もありす。また、スタキングも容易です。

上のスケッチは、高橋さんにデザインを伝えるために描いたものです。工業製品をデザインする時のような精密な図面はありません。型を使わない宙吹きで制作しているため、いくら精密な図面を描いてもその通りには作れない。デザインもキャパシティーが広くなければならないのです。とは言え、「いい加減で良いというわけではありません」。そこには明確な完成イメージがある。そのイメージを作り手と合わせていく必要があります。スケッチの左側の焦げ目は、高橋さんが「around」の制作途中で、スケッチの上に直にコップを置いてサイズを確かめた跡です。生々しいコラボレーションの痕跡です。

制作は、高橋禎彦さんのガラススタジオで、主として高橋さんのアシスタントの大木戸寛さんが行っています。大木戸さんは、今年多摩美術大学のガラス専攻を卒業したばかりですが、腕は確か。冷静で向上心も高く、とても明るいガラス作家です。すぐにデザインの意図を理解してくれました。

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カップの底に「around」のロゴの「a」を刻印しています。グルグルガラスを回しながら制作している様子をモチーフにデザインしました。

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「around」では、透明ガラス製の他に、写真003のようなテクスチャーがついたバージョンも出す予定です。このテクスチャーは、いままでガラス作品制作ではネガティブファクターだったガラスに付着するゴミを意図的に数多く付けてみた結果生まれました。見た目に美しいだけでなく、ザラザラした感触が心地よい肌合いです。このように、ネガティブなことをポジティブに変化させるデザインも「around」で試みています。

「around」は完成し、今は試用段階です。できるだけ多くの人に使ってもらい、CCJクラフト見本市までにさらにデザインを洗練させていく予定です。