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もくもく絵本研究所_01 2012.10.31

キツネとシシガシラ(8x5)_02.jpg

合同会社もくもく絵本研究所のキューブ型の木の絵本、『キツネとシシガシラ』(写真001)と『だれがどすた?』(写真002)が今年度のグッドデザイン賞を受賞し、「グッドデザインベスト100」に選ばれました。今年度のグッドデザイン賞への応募件数は、3,131件。ベスト100は、グッドデザイン賞を受賞した1,108件の中から選定されています。
(関連記事:chronofile「もくもく絵本研究所_02」works_「もくもく絵本研究所」、chronofile「グッド・トイ」)

キツネとシシガシラ(8x5)_01.jpg001:キツネとシシガシラ

だれがどすた(8x5)_01.jpg002:だれがどすた?

『キツネとシシガシラ』は、遠野に語り継がれてきた遠野弁の昔話。2個のキューブ(12ページ)の物語を手の中で回しながら読む絵本です。

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『だれがどすた?』は遠野弁。「誰がどうした?」という意味です。「誰が」「どこで」「何を」「どうした」という4個のキューブを組み合わせてお話を作る絵本です。キューブは6面ありますから、6の4乗で1,296通りの文ができるわけです。組み合わせ方によっては、「おんなのこが」「やまで」「せんたくものを」「たべました」といったような面白い文もできます。

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もくもく絵本研究所のメンバーは4人です。

前川敬子(8x5).jpg003:前川敬子さん(語り部タクシーの運転手さんと)

代表の前川敬子さんは、遠野交通というタクシー会社の経営者です。4人のお子さんを育てたお母さんでもあります。彼女は30年前からタクシードライバーがガイドする観光タクシーに力を入れきました。お客さんに遠野の自然や文化の魅力を、遠野で生まれ育ったドライバーが案内する「語り部タクシー」を売りにしてきたそうです。

徳吉敏江(8x5).jpg004:徳吉敏江さん(飼馬のジンガ郎と娘の茜ちゃんと)

徳吉敏江さんは、もともとは東京に住んでいましたが、遠野の自然や文化に惹かれ、夫婦で移り住みました。彼らが東京に住んでいる頃に知り合った大切な友人でもあります。夫の英一郎さんと娘さんの茜ちゃん、馬のジンガ郎と遠野の大自然の中で暮らしています。

松田希実(8x5).jpg005:松田希実さん(3人の息子さんたちと)

松田希実さんは、遠野の町中にある老舗のお菓子屋さん、「まつだ松林堂」に仙台から嫁いできました。3人の息子さんのお母さんです。幼稚園の先生をなさっていた経験もあります。

豊田純一郎(8x5).jpg006:豊田純一郎さん

豊田純一郎さんは、京都大学の大学院で「木質細胞構造機能」を研究なさった後、故郷の遠野に戻られて製材会社「協同組合 リッチヒル遠野」の経営をなさっています。

このモノづくりの専門家ではない4人のメンバーが、本業の傍ら、もくもく絵本研究所を設立し、商品の企画、デザイン、設計、材料調達、制作、宣伝、流通、販売を全て行っています。

もくもく絵本研究所が設立されたのは、2004年12月のことでした。
・遠野のお話文化を伝えていきたい。
・親子の関わりを深めたい。
・間伐材利用などで自然を守りたい。
・新しいビジネスを開拓したい。
という「文化」「教育」「自然」「経済」対する思いをカタチにできないかと考えた時、間伐材を利用した「木の絵本」を作れば、一度に思いが叶うと閃きました。そこで、遠野で新しい産業を興す目的で創設された「遠野地域ビジネス支援システム」に支援を申請したところ、このアイデアが認められ、調査費や事業化への支援を得られることになった。

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徳吉さんから「木の絵本」についてデザインの相談があったのはその頃です。
もくもく絵本研究所のメンバーは、通常の紙でできた絵本を木の板で作ることを考えていたのですが、そうすると厚くなるし重くなります。また、板を紙のように綴じることもできないことにも気づき困ってしまった。そこでプロダクトデザインの専門家に相談すべきではないかということになったようです。

以下は、最初に遠野に持っていったスケッチの一部です。
もくもく絵本研究所のみなさんに、「紙は2次元だが木は3次元」ということを伝えるために描きました。例えば「一枚の紙は表と裏で2ページとなりますが、厚みのある長方形の板では、表と裏以外に、4つの端面があるので、4つの端面と表と裏の2面を合わせると6ページと考えることもできます」ということから話を始めました。

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板が立体であるという認識を持つと、発想が広がります。木の触感や音を楽しむ絵本、箱形の絵本、積み木のような絵本などなど、木ならではの絵本が考えられるといったことなどをスケッチを見せながら話しました。そして、もくもく絵本研究所のみなさんに自由に木の絵本のアイデアを考えて欲しいとリクエストしました。

スケッチなどしたことのない方がほとんどでしたので、実際に木を使って作るようにアドバイスしました。絵はとりあえずイメージに近い絵や写真を探してコピーして木に貼っても良いし、プリントゴッコ(販売終了となり残念ですが)を使えば、木に直接印刷もできることなどを教えました。

スケッチには特殊な能力が必要ですが、立体は上手い下手はあっても意外と誰でも作れるものなのです。特に木や紙、布といった素材は、どこの家庭にもあるカッターやはさみ、のこぎりで加工できますし、のりやホッチキス、糸、釘などで貼ったり留めたりもできます。

idea1.JPG007idea3.JPG009

idea2.JPG0082005年1月のミーティングで出された木の絵本のアイデアの一部です。

木目を水に見立てた絵本(007)や、丸木を輪切りにしたピースを使って足跡から動物を当てて遊ぶ絵本(008)、しりとりをパタパタとめくりながら楽しむ絵本(009)、他にも舞台を自分で作ることのできる絵本やキューブ型の絵本など、自由な発想のアイデアばかりで驚きました。モデルの作り方も素人とは思えません。
007と008を制作した徳吉敏江さんは、工場のレーザーを使用して木に絵を焼き付けています。009を制作した松田希実さんは、自分で描いたイラストを、プリントゴッコで版を作り、木に直接印刷していました。それだけでなく、パタパタと木が開くように布ヒンジを丁寧に貼って作っています。

数多くのアイデアの中から、自分たちで制作できるかどうか、材料は入手しやすいか、高額になりすぎないかといったことなどを考慮して、豊田純一郎さんが発案したキューブ型の絵本を最初に商品化することに決めました。

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DSC00032(8x5).jpg012キューブには檜(ひのき)の間伐材を使用しています。
(注:写真013は、初期に制作した広葉樹の間伐材製)
キューブのサイズは、一辺50mm。子供の手にすっぽり収まるサイズを検討して決めました。万が一、投げても角が当たって大怪我をしないように、エッジを落とす配慮もしています。
イラストや文字は、製材所のレーザー加工機をお借りして焼き付けています。(写真011)印刷ではないので、お風呂で遊ぶこともできるわけです。表面処理もしていないので舐めても大丈夫です。

キューブへの加工は製材所の職人さんに依頼していますが、その他の作業はもくもく絵本研究所のみなさんが手分けして行っています。
皆モノづくりは素人ですが、厳しい家電メーカー並の検品項目を示して、それを忠実に実行しているので、素人が作った商品とは思えない仕上がりです。

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パッケージも一つ一つ手作りです。安次富久美子がデザインし、もくもく絵本研究所のみなさんに作り方を教えました。パッケージを発注することは可能です。しかしその場合は大量に注文しなければ安価に作ることはできません。大量生産できない木の絵本では、手作りのほうがコスト的にも仕上がりも良くなります。おそらく説明されなければ手作りだとは思えない出来映えです。

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絵本のイラストも全て自分たちで描いています。4個組の『だれがどすた?』のイラストは豊田さんが描いています。2個組の『キツネとシシガシラ』は前川さん作。前川さんは「一度も絵をほめてもらったことがない」と最初はイラストを描くことを嫌がっていましたが、素朴ながらもディテールまで丁寧に描かれていて、温かく愛情が感じられるイラストに仕上がっています。
お母さんは決して語りのプロではありませんが、子供の心に響きます。前川さんの絵は、お母さんのお話のようなものなのだと思います。

同様に、もくもく絵本研究所の木の絵本の魅力は、まさにお母さんたちが子供たちにお話を語るように、ご飯やお菓子を作るように、一つ一つ心を込めて作られているところにあるのだと思います。

もくもく絵本研究所の木の絵本は、
・2006年:全国間伐・間伐材利用コンクール
     [暮らしの中の木材利用部門]で審査委員特別賞
・2007年:遠野市文化奨励賞
・2008年:いわて特産品コンクール・工芸生活部門で岩手県知事賞
・2010年:全国間伐・間伐材利用コンクールで審査委員奨励賞
・2011年:遠野市文化奨励賞
を受賞しています。
2012年の今年、グッドデザイン賞を受賞しましたので、発売以来、ほぼ毎年何かしら賞を受賞していることになります。
モノづくりでは素人たちの商品が、これだけ評価されることは珍しいのではないでしょうか?おそらく多くの人に共感される魅力があるからでしょう。

だれがどすた(8x5)_04.jpgもくもく絵本研究所の木の絵本の魅力は、単にお母さんたちが心を込めて商品を作っているからという理由だけではないように思います。誰が見てもプロの仕事と思える商品の高い品質があるからです。このような高品質の商品を作ることができたのは、「質の上限を知らなかった」からではないかと考えています。「経験による限界や妥協を決められない」「上限を知らなければ、どこまでも向上するより他ない」ということです。

『だれがどすた?』は、英語、中国語、韓国語、フランス語など外国語版も作られています。(左写真)
私がデザインに関わったのは、『キツネとシシガシラ』と『だれがどすた?』だけですが、『トンビの染屋』というキューブ1個だけの木の絵本や、『札っこ合わせ』という神経衰弱のような遊びができる絵本などの新作もあります。(もくもく絵本研究所のHP:http://www.mokumokuehon.com/index.html

もくもく絵本研究所が未来に向けて、大樹を育てるように、少しずつ年輪を刻んでいっていることを嬉しく思っています。そしてもくもく絵本研究所の試みは、単なる商品づくりにとどまらず、多くの人を巻き込みながら、当初の目的である
・遠野のお話文化を伝えていきたい。
・親子の関わりを深めたい。
・間伐材利用などで自然を守りたい。
・新しいビジネスを開拓したい。
という、「文化」「教育」「自然」「経済」に対する思いの輪を広げていくに違いありません。