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美 装 2011.12.10

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富山県高岡市の株式会社 杉本美装を訪ねました。杉本美装さんは金属素材、プラスチック素材などの表面処理、塗装、着色が専門の会社です。
代表取締役の杉本和文さんは「変わり塗装」のプロフェッショナル。「変わり塗装」とは、様々なテクスチャーを塗装で表現する手法です。漆塗り、金属着色をはじめ石や木目などを塗装で表現してしまう。「えっ?これも塗装ですか?」と思わずうなってしまいました。
塗料は「純アクリル塗料」を使用しているとのこと。純アクリル塗料は熱をかけるまで乾燥しないため、様々な技法を施しやすいのだそうです。その技法はアイデアの宝庫でした。例えば写真001のパターンは、海綿を使ってスタンピングしているようです。言われてみれば「なるほど」と思いますが、このように自然なパターンに見えるようにスタンピングすることは、見た目以上に難しいと思います。よほどセンスがない限り、パターンに規則性が出て人工的になってしまうでしょう。

002:代表取締役の杉本 和文さん

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スタンピングの他にも、マーブリング(写真005)や化学反応を応用したテクスチャー表現など、技法は多様です。漆塗りや金属着色と異なり、塗装では色数が無制限、どのような素材にも着色できるというメリットがあります。そのため、ガラスや紙に「変わり塗装」を施して、バックライトを当てるとドラスティックに見た目が変化するプレートなどもありました。杉本さんは本当に頭が柔らかく、遊び心も挑戦心も旺盛な方なのです。

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1989年にデザインしたSONYのテレビ、16EX(写真009、010)では、塗装にもこだわりました。手で触ると柔らかく感じるスウェード風の塗装と、石目塗装です。どちらも当時はなく、塗料メーカーや塗装工場に協力を仰いで開発しました。なかでも石目塗装には苦労しました。ベテランの塗装職人さんが「こんなものは塗装できない!」と言っているというので工場に飛んでいったところ、ムラなく塗ることはできるが、石に見えるように塗るというのはどうして良いかわからないということでした。スプレーガンで下手に塗れば石風になると予想していたので、職人さんのスプレーガンを借りて塗り始めたところ、「わかった!それじゃぁダメだ、貸してみろ」となり、ようやく完成したのでした。しかし、塗料をムラなく美しく塗ることで修練を重ねてきた塗装職人さんが、いくら下手に塗ろうとしても石目のパターンに規則性が出てしまう。人工的な印象を与える石目塗装には満足できませんでした。あの時、杉本美装さんに出会っていたら、センセーショナルな商品が出せたかもしれません。

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「変わり塗装」はもともと漆塗りや金属着色された仏具を安価にするために考えられた技法です。悪く言えば「フェイク」です。しかしどこにでも着色できる、色数も無限という塗料の特性を活かすと、今までにない新しいサーフェイス・デザインが生まれる可能性がある。それは「フェイク」ではありません。自然界に存在しないが、人を魅了するパターンやテクスチャーを杉本さんと一緒に開発し、その魅力を活かしたプロダクトをデザインしてみたい衝動にかられています。